令和元年度排出量の集計結果-温室効果ガス排出量 算定・報告・公表(SHK)制度

令和4年12月に、環境省「温室効果ガス排出量 測定・報告・公表制度」のサイトにて、令和元年度の温室効果ガスの排出量集計結果が公表されました。

集計から結果公表まで3年半以上経過していることを考えると、情報公開の迅速性に欠けるのが問題で、今後注力していかなければならない重要なテーマにしては時間がかかり過ぎているのではないかと懸念します。

脱炭素テクノロジーの進歩もあり、今日3年前の数値を基に議論するのではあまり意味が無く、迅速な情報開示技術が求められるでしょう。

その一方で、算定・報告のマニュアルを見ればこれだけ時間がかかるのも納得してしまうほどの複雑さです。【温室効果ガス排出量の算定方法】だけでも241ページのボリュームがあり、『エネルギー起源の二酸化炭素』と『非エネルギー起源の二酸化炭素』の違いから始まり、排出される温室効果ガスの種類が多岐に渡っていること、そしてそれを統一の指標で比較できるように全て地球温暖化係数(GWP)を掛けて二酸化炭素に置きなおしていること等がよく分かります。

また、電気事業者ごとの基礎排出係数も掲示されており、各社で使用している電気事業者ごとに算出して報告することも求められています。

事業規模云々あると思いますが、一番少ないところで0.000016t-CO2/kWh、一番多いところで0.001099t-CO2/kWhと6.9倍もの開きがありました。
(なるべくCO2排出量の少ない電気事業者と契約したいと考える法人・個人にとって、参考資料にもなります)

地球温暖化の原因の1つとしていまや有名な、牛から排出されるCH4(メタン)も、放牧しているか、畜舎で飼養されているかによって排出係数が変わってくるほどの細かさです。

カーボン・オフセットに用いるために無効化された国内認証排出削減量についての記載があり、創出事業者と取得事業者間でどう扱うか等の取り決めも明記されています。

さて、気になる令和元年度の温室効果ガスの排出量集計結果です。

報告の義務がある主な排出者を簡単に指すと、全ての事業所の原油換算エネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる特定事業者や、特定輸送排出者(貨物、旅客、航空等)が対象です。

令和元年度に排出量の報告を行った事業者(所)数は、特定事業者12,178事業者、特定輸送排出者1,303事業者ありました。

■特定事業所排出者 業種(大分類)別

事業分類が「製造業」(6,295 件、51.7%)からの報告数が最も多く、報告した事業者数のうち約 5 割です。次いで「卸売業,小売業」(1,443件、11.8%)、「生活関連サービス業,娯楽業」(1,157 件、9.5%)、「宿泊業,飲食サービス業」(1,108 件、9.1%)、「教育,学習支援業」(1,053 件、8.6%)の順でした。

https://www.env.go.jp/content/900518651.pdf より抜粋

■特定事業所排出者 都道府県別

特定事業所の所在地が東京都(1,357 件、9.0%)、愛知県(1,054 件、7.0%)、大阪府(886 件、5.9%)、神奈川県(852 件、5.7%)、兵庫県(710 件、4.7%)、静岡県(667 件、4.4%)、千葉県(645 件、4.3%)、埼玉県(637 件、4.2%)、茨城県(555 件、3.7%)、北海道(541 件、3.6%)の順に多く、これらの 10 都道府県で、報告された特定事業所数の半数以上を占めています。

https://www.env.go.jp/content/900518651.pdf より抜粋

■特定排出者別の算定排出量内訳

出所:https://www.env.go.jp/content/900518651.pdf

報告のある分だけで、日本国内では年間6億4300万トンのCO2を排出していることが分かります。国民一人当たりに換算すると、年間少なくとも5.3トンのCO2を排出している計算になります。

なお、全国地球温暖化防止活動推進センターの資料によると、2019年の世界の温室効果ガス排出量は、約335億トンで、国別の温室効果ガス排出量では、多い順に中国、アメリカ、インド、ロシアと続いて日本は5番目に排出量が多い国であり、
一人当たりの排出量は、中国7.1t、アメリカ14.5t、インド1.7t、ロシア11.3t、日本8.4t、ドイツ7.8t、韓国11.3t、アフリカ諸国0.97t とあります。

■都道府県別の算定排出量【特定事業所】

出所:https://www.env.go.jp/content/900518651.pdf

都道府県別で見ると、特定事業所の所在地が千葉県(4,461 万 tCO2、8.5%)、愛知県(3,899 万tCO2、7.4%)、山口県(3,111 万 tCO2、5.9%)、広島県(3,088 万 tCO2、5.9%)、神奈川県(3,075万 tCO2、5.9%)、兵庫県(3,069 万 tCO2、5.9%)岡山県(3,015 万 tCO2、5.8%)、茨城県(2,948万 tCO2、5.6%)、福岡県(2,736 万 tCO2、5.2%)、大分県(2,643 万 tCO2、5.0%)、北海道(2,109 万 tCO2、4.0%)、三重県(1,549 万 tCO2、3.0%)、大阪府(1,390 万 tCO2、2.7%)、東京都(1,288万 tCO2、2.5%)、和歌山県(1,142 万 tCO2、2.2%)の順に多く、これらの 15 都道府県における特定事業所からの排出量は報告された特定事業所全体の排出量の 75.4%を占めています。

https://www.env.go.jp/content/900518651.pdf より抜粋

千葉県の排出量が多いのは、鉄鋼、エネルギー、石油化学、化学などの各産業が集積する「京葉臨海コンビナート」が立地しているのが主な要因ですが、「京葉臨海コンビナート」もカーボンニュートラル実現へ向けて2022年末に協議会を設立しています。

報告書の巻末には、報告があった事業者ごとのCO2排出量も掲載されています。観光業界では、「ホテル」というキーワードで検索を掛けただけでも141軒ヒットしますし、レジャー施設では東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営する合同会社ユー・エス・ジェイも載っています。

株価のように、事業者ごとの排出量の推移をや事業規模を考慮した上での同業他社との比較をしてみると興味深く、非財務情報や統合報告書に欠かせないデータであることを実感し、今後は大企業に限らず、中小企業の決算書においても欠かせない要素となることを予感します。